理事長挨拶

2017年 8月 9日

はじめに

私は約40年間、東京の国立がんセンター(現在は国立がん研究センター)と福岡の九州がんセンターで、“がん”の診療について、主に消化管の画像診断に従事してきました。その間、家族性・遺伝性の消化管腫瘍の研究を通して、その診療や相談も行っていました。その実態を深く知るにつれて、医師として力の弱さも実感させられました。中には幸が薄い患者さん、社会的に恵まれない患者さんがおられるのを経験し、医師として力の弱さ、医療の限界も身をもって感じてきました。 また定年後、約7年間にわたり老人ホームなどで、高齢者の“がん”、認知症の方々の“がん”に接し、患者さんのQuality of Life(QOL)の向上を私なりに考えてきました。その間、QOLの向上は“がん”の患者さんは勿論のことですが、認知症、神経疾患、慢性の心・肺疾患や腎疾患で長期にわたり治療が必要な方々、その家族の方々のみならず介護に携わっておられる医療従事者の方々にも必要であることを学びました。 その苦悩を少しでも減らす方法の一つとして、18年前からQuality of Life(QOL)の向上を目指して、「癒し憩い画像データベース」の構築を開始し、今も日本全国の美しい自然の原風景を、静止画(約25万枚)、動画(約1万本)としてインターネット上で発信して きました。そして5年前より、「癒し憩いの小窓」として、画像データベースから選んだ全国にわたる多くの画像に、音楽と文字を付けて、更新しつつ供覧しています。

Quality of Life(QOL)は「生き方の質」

患者さんやその家族の方々の、生命・生活・人生の質(Quality of Life)を、いかにして向上させるかは、今、大きな問題になっています。 最近では、“がん”も生活習慣病の一つとして、ライフスタイルの改善の重要性が提言されています。 ところでQOLの向上を目指す活動の一つとして、心や精神の癒しと憩いの分野があります。音楽療法、園芸療法など、いろいろな「癒し・憩い」は、QOL向上の視点からも注目を浴びています。懐かしい写真(静止画と動画)を活用した「癒し・憩い」は、その一つでしょう。 人はそれぞれの価値観のもと、自らの理想とする生き方をもっています。病気になっても、その人の生き方を尊重するような援助が望まれます。その目的に沿うべく、患者さんを家族、親類、友人や仲間たち、地域のみんなで支え合い、その人の人生を、いかに価値あるものにしてあげるかが大切です。 人にはそれぞれ人生があります。10歳の人は10年の、30歳の人には30年の、70歳の人には70年の春夏秋冬があります。そして、それぞれ生活してきた環境、仕事、趣味などが異なります。これらのことをよく知っているのは、家族や親類、学校や同好会の同僚、先輩や後輩、地域の人たちです。患者さんが自宅を中心として、手助けを受けながらやり残した仕事をし、ご本人が望む毎日を過ごせるように、みんなで支え合うことが、地域医療の要と思います。これがQuality of Life(QOL)、つまり「生き方の質」であると考えます。

画像による癒し・憩いを…

写真は見る人々に、懐かしい思い出を運んでくれます。その時、身体の痛みや不安、いろいろな心配事を忘れさせてくれるでしょう。「癒し憩い画像データベース」には、各地の景勝地、山や海、高原や草原、渓流や滝、懐かしい風景、心にある原風景、木々や草花など、多くの写真(静止画と動画)を集めています。患者さんや家族の方々が、それぞれの懐かしい思い出に繫がる写真を見て、ひとときの癒しと憩いを感じていただき、医療に活用していただけましたら幸いに存じます。 永い年月、画像診断に携わってきた者の使命として、画像を活用した「癒し憩いの医療」の実践は、最後のライフワークと思っています。
理事長 牛尾恭輔(うしおきょうすけ)
理事長 牛尾恭輔
略歴
1944年生まれ。国立がんセンター 放射線科診断部長などを経て、1998年九州がんセンター副院長、2006年院長、2009年名誉院長に就任。 第3次対がん10カ年総合戦略研究事業企画運営委員会委員/(財)日中医学協会 理事/(財)福岡県すこやか健康事業団 評議員/(財)日本対がん協会 評議員/(財)がん研究振興財団 評議員 等